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2011/06/29


エースは一日してならず

 いま日本のプロレス界を見渡して“エース”という肩書きが一番ピッタリなのは、新日本プロレスの棚橋弘至だと思う。
 現IWGPヘビー級王者だし、棚橋のカード見たさにチケットを買うファンも多いし、試合内容も素晴らしい。棚橋がメインで勝利し、エアギターで観客をノリノリにさせ、「愛してま〜す」で締めくくったときの多幸感と来たら半端ではない。

 いまの棚橋は脂が乗り切っていて、実に充実している。歴史や団体としての規模などを考えると、新日本プロレスのエース=日本プロレス界のエースといっても過言ではないが、いまの棚橋はその大役すらもしっかりこなしている。
 だが、棚橋が順風満帆にエースにまで上り詰めたかというと、決してそんなことはない。そもそも若手の頃にいきなりスキャンダラスな事件を起こしてしまったし、今でこそ「それでこそ棚橋!」と言えるあのチャラいキャラも、とにかく鼻につくというか、棚橋が何をやってもブーイングを浴びるような時期もあった。

 それでも棚橋はあのキャラを変えず、腐ることなく肉体を鍛え上げ、試合内容でブーイングを歓声に変えていった。凄いもので、棚橋がブーイングを食らっている時代の新日本は、後楽園ホールが厳しい客入りだったのも珍しくなかったが、いまや大阪府立体育館を超満員札止めにしてしまうほどだ。
 「俺の進化は光よりも速い」というのは棚橋のセリフだが、確かに棚橋がエースとして確立してからの新日本の上昇ぶりはあっという間だったように感じる。だが、エースは一日にしてならず。棚橋にも苦しい時代があったのも間違いない。

 先日、久しぶりにスターダムの新木場大会を取材に行ったのだが、メインでは愛川ゆず季と美闘陽子のBY砲(仮)と、夏樹☆たいよう&世IV虎の川崎葛飾最強伝説がタッグ頂上対決を行った。
 スターダムの現エースといえば高橋奈苗となるのだろうが、スターダムは決して高橋奈苗というエースを全面に出して作られた団体ではない。むしろ奈苗はあくまでも“暫定エース”であり、様々な部分で奈苗を超えるような存在のレスラーが現れたときこそ、初めてスターダムのエースが誕生するといったほうがしっくりくる。

 中でも極真空手全国2位という肩書きを持ち、170センチの長身で、ルックス的にも人気が出そうな感じだったため、早くから「エース候補」とか「未完のエース」などと言われていたのが美闘だ。
 ところが、久しぶりに見たスターダムでは愛川の人気は別格としても、試合前の声援は明らかに夏樹&世IV虎のほうが美闘より上だった。

 それはスターダムが旗揚げしてから約半年のあいだ、夏樹も世IV虎も試合内容やキャラクターでファンの支持を掴んだ証だろう。いくら素材は良くても美闘は愛川と人気を二分するどこか、同期でヒールの世IV虎にも人気の面で差を付けられてしまっていたのだ。
 何とも厳しい現実だが、プロレス界では早くからエース候補と期待された選手が、そのままエースと呼ばれるのに相応しいところまで成長出来た例のほうが少ない気がする。

 このまま美闘は未完のエースのままなのかもと思われたが、この試合で美闘は夏樹のたいようちゃん☆ボムを踏ん張ると、そのままインプラントのカタチで叩き潰し、3カウントを奪うという大金星をやってのけた。
 これが得意の蹴りだったり、丸め込みによる切り返しだとしたら、そうでもないのだが、女子レスラーとしては大きい170センチの美闘が繰り出すインプラントはフィニッシュとして説得力十分! それに試合前の歓声で分かるように、正直美闘への期待がイマイチだった状況で、タイトルマッチを控えている夏樹からピンフォールを取るというのは実にインパクトがあった。

 美闘が3カウントを取った瞬間は、スターダムの興行の中でも1、2を争う沸き上がりっぷりだったと思う。これで美闘は少なくともまだエースになれる可能性を残した。
  棚橋もそうだが、こういう説得力のある試合をコツコツ積み上げていき、ファンから信頼されるようになり、「やっぱり美闘は凄い!」と言われるようになってこそエースだ。いくら凄い実績を持っていようが、ルックスが良かろうが、エースは一日にしてならず。未完のエースがどう完成していくのか、ちょっと楽しみになった。